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映画感想:『ボーダーライン』でメキシコの現実を知る

ボーダーライン(字幕版)

2016年北米公開の『メッセージ』がアカデミー賞ノミネート、今年は『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』が公開されるドゥニ・ヴィルヌーヴの監督作。

メキシコの麻薬戦争を扱っており、翻弄されるFBI女性捜査官の視点を中心に作成されている。


鑑賞後すぐには「緊迫感はあるが、特段ストーリーに大きな起伏もないし結局何だったのかよく分からない。暗く落ち込む作品。」というぐらいの印象だったが、鑑賞後1日経て本作に対する印象が徐々に変わってきた。
その感情は主役であるFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)の感情そのものなんだと気がついた。

理由も知らされずメキシコの麻薬戦争の担当となり、メキシコに連れて行かれ、簡単に人が殺され、そして自分たち側だと思っていた人に脅され…

「見ていればいい」

そう誰かが彼女に言ったが、それは観客に向けられた言葉でもあるのだろう。

考えても答えなど出ない。
「メキシコの麻薬戦争はどうしたら解決することができるのか」「自分には何ができるのか」
解決策は(今は)ないし、自分にできることもない。

ただただケイトに近い立場として「現実」を感じ無力感を感じることしかできない。
しかし、誰しもそう感じることしかできないし、製作者側が意図した体験も同様のことであると思う。


本作を観て、メキシコの女性市長の話を思い出した。複数回の襲撃を受け、そのうちの1回では夫を殺害され、自らも内蔵を損傷し、この事件以降から人工肛門を付けて生活する事となった方だ。改めて彼女のことを調べてみると、市長を引退した後、娘が誘拐されたため自らの身を差し出し、そして殺害された。

言葉もない辛い現実。

それがメキシコの麻薬戦争の現実である。


またもう一つの語るべき話として、息子の試合を見に行くと約束していながら殺されてしまったメキシコ人の警官がいた。

彼は殺される前に「俺には息子がいる」と話す。

観ている人の中にはこう思う人もいるだろう。
「だったら汚職をするような危険を冒さずに、息子のためにちゃんと仕事をするべきではないか」

綺麗ごとはそうだ。ただその土地では綺麗ごとは通用しない。
彼は、そうせざるを得ない状況に追い込まれているということも容易に想像がつく。


底なしの深い闇。それをこの映画から感じた。