映画感想:『インファナル・アフェア 無間序曲』は香港返還の抒情詩

インファナルアフェア ? 無間序曲 (字幕版)

インファナル・アフェア 無間序曲』は「インファナル・アフェア」、三部作の二作品目。
ゴッドファーザーと同じく、間の二作品目は、過去の話が中心になっている。

時代は一作品目である『インファナルアフェア』の2000年代初頭から遡り、香港返還(1997年)前の時代とその当日が描かれている。

ラウとヤン、またウォン警部(一作目では警視)とマフィアのボス サムが一作目の彼らになるまでのストーリーだ。
当時の香港マフィアの大ボスクワンの息子であり後継者のハウと他マフィアとの覇権争いを軸に話は展開する。

舞台は返還前の香港。当時の香港はイギリスから中国に返還される不安と期待が入り混じった混乱の様相だったことだろう。
例えば香港警察で使われている言語は英語であり、国民を守ることが職務である警察官が本当の母国語を職務では使えないという矛盾がそこには存在する。本作の中では描かれていないが、上層部にイギリス人もいたのだろう。

香港返還に対する香港住民の想いとは、一言で言うと「混乱」だろう。何しろ99年間イギリス(一時期日本)の領地だったのだ。例え返還後に一国二制度になるのだとしても、住民は混乱をする。自らの重要なアイデンティティの1つである国家が変わるのだ。当たり前だろう。

香港返還に対する人々の想いを「インファナル・アフェア」の登場人物の想いと通して知ることができる。
彼らもまた、混乱し、目標を見失っているのである。

ラウは自らのボスの妻に入れ込み、ボスではなく、彼女のために行動するようになる。彼女が去った後には、表向きはサムのために警察にい続けるのだが、そんな彼にサムへの忠誠心はないだろう。

ヤンは自らの血筋から逃れて善人になりたかったが、その血筋ゆえに警察学校退学となった。ウォン警部に潜入捜査官として拾われるものの、警官でありつつ、そうあるために、異母兄弟マフィア組織に在籍するという矛盾した立場だ。

ウォン警部は、職務への一途さがゆえに信義とは反する一線を超えてしまう。一線を越えたがために、大きな犠牲も払うことになり自身を失っていく。

ンガイ・ハウは、父と同等の存在になろうとするものの、強権的になってしまい敵を多く作ってしまう。まわりが敵だけになり、家族にすがる姿は、彼の目指すべき方向は父親だったのだろうかと疑問を持つ場面だ。


そんな香港住民と重なる彼らと対照的なのはマフィアのサムだ。
お調子者に見えて策略家であり、自らの目標である「香港における権力奪取」に向けて、あわてず慎重な行動をしている。唯一冷静だったサムだけが自らの目標を達成することができた。

そんな彼らはそれぞれの「香港返還」を迎える。
ラウは新たなマリーを見つけ、ヤンはさらなる混沌の中へ、ウォン警部は志し新たに自らの意志を固め、サムは香港返還の花火と共にマリーへの想いとは決別し、権力の階段を登りつめていく。


香港の歴史と善悪へのアンビバレンスな感情が絡む重厚な作品となっている。
インファナル・アフェア」のメインストーリーでないものの、三部作をより大きな物語たらしめる名続編であったと言える。