映画感想:『ビフォア・ミッドナイト』でロマンを語ることの意味を知る


映画『ビフォア・ミッドナイト』予告編

ビフォアシリーズで1番良かった。

全2作が半ば夢の話なのであれば、本作は現実の話。

ジェシーセリーヌは共に年を取っており40代。2人は夫婦となっており、双子の娘がいる。生活を共にしていると、どうしても話す内容も現実的になる。車の中の会話、喧嘩のネタ。。2人の人生は、夢の中ではなく現実的なものであるということがわかる。そんな現実にストレスを抱えたジェシーセリーヌは、前2作ではなかった大げんかをする。

というのが本作の大筋のストーリーだ。


格段面白い展開というわけではないし、2人の喧嘩の内容も人類の大問題といった大それたものではなくありがちなものだ。


しかしジェシーの発言、行動が素晴らしい。

ジェシーセリーヌの全て受け入れている。彼女は仕事に情熱を傾けていて世に言う主婦ではない。彼女は子どもが生まれた瞬間に途方にくれたらしい。彼女とジェシーは、多くの物事に対する意見が異なる。

また役作りとしてそうしているのだろうが、20代の若かったセリーヌはそこにいない。体型は年相応になっているし、喧嘩をした時の顔はひどく疲れているように見える。

ただ、ジェシーはそんな彼女を全て受け入れると話す。無条件の愛を提供すると。



またジェシーは夢(未来からやってきたという話)を語る。


ジェシーという男の魅力はそこなんだろうなと思う。
1,2作目でもそうだったが、彼は夢を語るのがとてもうまい。所謂ロマンチストだ。
40歳をすぎるとさすがにロマンチックな発言は減るが、3作目で事態を好転させたのは彼のそういう部分だ。


長い時間を共に過ごすとどうしても改まること、ロマンを語ることが照れくさくなったりする。全てが現実的で物事はうまくいくのだろうか。人と人の関係において、全ての意見が一致することはない。些細なすれ違いであっても、やがてそれは大きく、クリティカルな亀裂に発展する。現実的なことばかりに目を向けてしまうと関係性が崩壊してしまう。そうして多くの夫婦関係は冷め、別れを選択することになるのだろう。


ビフォアサンセットの感想で「運命を信じるのは人間だけだ」と書いたが、運命を語るようなロマンチシズムは人間に必要なものなのではないか。


ジェシーセリーヌに言葉をかける。


「真実の愛を求めるならここにある。完璧ではないが、これこそが本物の愛だ」


その気持ちを、たとえ自分が年を取ったとしても忘れてはいけない。

夢を語ることの意味を知った本作は、地味ではあるが大人の名作だと思う。