映画感想:『ティパーテッド』とハリウッドリメイクの本質

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ハリウッドリメイクとは、アメリカ以外の国で作られた映画をハリウッドの技術、人材、お金を使ってリメイクすることだ。
リメイクの数は減ることがなく『君の名は』まで実写リメイクされるらしい。

そして本作は、香港ルノアールの傑作『インファナル・アフェア』をリメイクしたものだ。アメリカでの評価は高く、リメイクものとしては最多?のアカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞編集賞を受賞している。

本作をリメイクではなく1つの作品として観るのであれば良い出来なのかもしれない。ただ自分は、リメイクものとしてはいまひとつだと思う。

元作品であるインファナル・アフェアの魅力は、「警察とマフィア、それぞれの潜入捜査官が、正体を隠しながら駆け引きをするスリリリングさ」という舞台設定によるものだけではない。ラウ(警察に占有しているマフィア)とヤン(マフィアに潜入している警察官)それぞれの立場と本音の中で揺れる葛藤、そして仏教の世界観。

ヤンは善人だった。長い潜入生活で多少乱暴で薬中気味ではあるものの、彼がマフィアにいるのは「善人であるため」だ。
だからこそ、彼は警官として死ぬことができた。

一方のラウは悪人だった。2作目で描かれていたように、1990年代マフィアの大ボスを殺害し、警察に潜入した後も情報を流し続けていた。
彼は「善人になりたい」と願うようになるが、そう簡単にはいかない。
性(さが)から逃れることができず「善人になるために」悪事を重ねていく。
そして本作の最後には、死ぬよりもつらい『終極無間=無限地獄』で苦しむことになる。

なんて残酷な「因果応報」。

だがしかし、これは仏教の概念をストーリーに導入したアジア映画ならではのものである。
そこが本シリーズの醍醐味であり、ハリウッド映画にはないものだ。

映画感想:『インファナル・アフェアIII 終極無間』で仏教の残酷さを知る - ならず犬 映画ブログ


自分は『インファナル・アフェア』の感想でこう書いたが、まさに本リメイクでは元作品の仏教の世界観が抜けている。

そしてこうも書いた

一方で、たとえばキリスト経では悪人に対する宗教の態度は「救済」である。ラウのような悪人に対しても、「無限地獄」ほど残酷なストーリーにはしない。その国ごとの宗教観により、映画の脚本や演出も違ってくるのだろう。

ディパーテッド』においても、アメリカという国における宗教観、人生観を描いてほしかった。舞台設定は同じで国がアメリカに変わっただけの作品に思え、薄い作品に思えてしまった。

まあ、ただそうやって「エンターテインメント」を作ってきたのがハリウッドであり、入り組んだ裏のテーマとか設定とかはいらないと言われたらそうなのだろうが。

1つ言いたいことは『インファナル・アフェア(3部作)』は観てほしい。『ティパーテッド』は、、何も考えずに映画を観たいときや、ジャック・ニコルソンの大ファンで、マフィアとしての彼の迫力を堪能したい(唯一『インファナル・アフェア』に勝っている点だと思う)に是非。