映画感想:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』には「理性」という概念が存在しない


『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 予告編


欲望。多くの動物が生きるために持っているもので、動物である人間ももちろん持っている。
しかし人間が他の動物と違うのは「理性」があるということだ。
「理性」により人間は高度な文明を築きあげ、大きな力を持つようになった。


そして本作の主人公、レオナルド・ディカプリオ演じるジョーダン・ベルフォートには「理性」がほとんどない。
金、女、ドラッグ。欲望の象徴として語られるそれらに対しての欲求が異常だ。
金を得るために人を騙し、得た金を女とドラッグ、数々の贅沢品につぎ込む。

ここまで欲にまみれた人物なんかいないだろうと思うと、実話なんだから驚く。ジョーダン・ベルフォート本人に、本作でえがかれる数々のgreedyなエピソードはほとんどが本当にあったことなんだとか。自家用船舶が沈没しかけている時に、盟友?ダニーに何よりも優先して「ドラッグ」を取りに行かせたことなんかも実話なんだから飽きれてしまう。


「ベルフォートは異常だ。普通の人には理性がある。自分とは違う。」

この映画を観て多くの人はこう思うだろう。


ただベルフォートは最初からそうだったわけではない(少なくとも映画の中では)。就職した先に金融マン(ダラス・バイヤーズクラブの撮影で劇ヤセしていたマシューマコノヒー)の言動に引いているし、ダニーが彼にドラッグをプレゼントした時は(最初は)固辞した。

決して根っから欲望深いわけではないし、成人してからも健全な範囲で「稼ぎたい」と考える普通の人だった。

しかし彼には才能があった。「人を騙してお金を稼ぐ」才能が。

金を女とドラッグ、数々の贅沢品が手に入れられるようになると、その快楽にはまっていく。普通はある程度のところで自分の過ちに気づくのだが、彼はお金という「力」があったため抜け出すことができない。そうして長い期間快楽の世界にいたため、その世界から抜け出せなくなってしまう。彼は自分の逮捕された後にも全く反省する様子が見られない。「退屈だ」と言っているだけだ。


人間は欲には勝てない動物なんだろう。

理性の強弱に多少の違いはあるとしても、誰しもが欲に負けることはある。
100%、欲望を我慢することができます。なんて人はいない。


彼も普通の人だった。「きっかけ」と「機会」があっただけ、だ。

もちろん理性で抑制できるに越したことはないが、欲望を抑えるためには「きっかけ」と「機会」を可能な限り減らすことだろう。
自分の頭だけでコントロールしようとすると、どこかで破綻する。

※ちなみに、決して彼を肯定をしているわけではない。

こういう話を聞いたり観たりすると「お金=怖いもの」というなんとなくのイメージを持つ人が多いのだろうけど、
ひふみ投信代表、藤野 英人氏が書いた『投資家が「お金」よりも大切にしていること』を読むといい気がする。きっとそのイメージが払拭されるだろう。