映画感想:『メッセージ』は未来の話ではない


映画『メッセージ』予告


本作『メッセージ(原題:Arrival)』はSF映画である。


しかしSF映画(ここでは宇宙映画)と一言で言っても、様々なジャンルが存在する。

1つは純粋に「宇宙」をテーマにした作品である。
例えば『2001年宇宙の旅』や『ゼロ・グラビティ』をそれに分類することができる。宇宙そのものを描いたもので、『2001年宇宙の旅』はまさに宇宙そのものを描いた作品、『ゼロ・グラビティ』に関しては宇宙空間を舞台にしたサスペンス作品になっている。

次に「宇宙人」や「異星」を舞台にした冒険活劇がある。『スターウォーズ』や『アバター』、広くいえば『エイリアン』や『E.T.』なんかもそこに加えることができるだろう。主人公(多くは地球人)と同調することで、決して地球では見ることができない宇宙人や異星の姿を楽しむことができる。

そしてより現実に近しい話として「ファーストコンタクト」の話がある。ジョディ・フォスターと、後に『インターステラー』で主演をつとめるマシュー・マコノヒーが出演する『コンタクト』や『未知との遭遇』がそうだ。ファーストコンタクトの恐怖感もありつつ、『コンタクト』は未来・希望を語る非常にポジティブな作品となっている。

「ラブストーリー」である『パッセンジャー』や、エンタメ色が強い『オデッセイ(原題:The Martian)』など、他にも数多くのSF作品が製作されてきた。


本作はどうだろう。

トーリーとしてはこうだ。

ある日突然、世界中のあちらこちらに12の「ばかうけ型」宇宙船が現れる。なぜ宇宙船が現れたのか、破壊/侵略か、それともその他の理由か、全くわからない危機的な状況。そんな中、アメリカでは言語学者のルイーズが現場に召集され「彼ら」とのコミュニケーションを命じられる。果たして「彼ら」の目的とは?人類、ルイーズはどうなってしまうのか?!

まさにテーマとしては「ファーストコンタクト」。
しかし本作は、『コンタクト』で語られる未来・希望を押しだした作品ではない。

では何が描かれている作品なのか。



それは「現実の肯定」である。



何をどう肯定するのか、ネタバレになってしまうのでここでは書かない。

面構えは「未来」の映画なのだが、作品の方向性は「現実」である。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はその見せ方がとてもうまい。
彼の作品の特徴は「余計な装飾はしない現実感」であると考えている。
プリズナーズ』『ボーダーライン』では静かな暴力を最低限の音響とともに描いた。

本作も余計な演出がない。
地球外生命体の姿、動きは決して派手なものではなく、行動も最後まで静かなものだ。

盛り立てる、というよりは観客を盛り下げて現実感を作り出す低い音の音響で、本作はアカデミー音響編集賞を受賞している。


だから「SF映画を観てワクワクしたい!」という人には決しておすすめできない作品だ。
それを期待して観ると、裏切られた気持ちになるだろう。

逆に「SF映画を観て、静かに自分の人生について考えたい」という人にはおすすめできる作品である。
(そんな感情をピンポイントで抱く人がいるかはわからないが)

もちろん、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品好きな人は、期待は裏切られることはないだろう。


ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい、一味違ったSF映画を楽しむことができた。